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COLUMN コラム

聴覚障がいとは? 等級や種類、コミュニケーション時に配慮すべきこと

2021年04月02日

「聴覚障がい」は、音や声が聞こえない、あるいは聞こえにくい障がいです。一口に聴覚障がいといっても、障がいの原因や程度の「差」、聞こえ方の「違い」があります。さらに、同じレベルの障がいであっても、障がいを持つ人が置かれている状況によってどんな場面で特に困っているかなど「個人差」も生じます。この「差」や「違い」について理解することは、聴覚障がい者と円滑なコミュニケーションを図る上で、非常に重要です。


この記事では、聴覚障がいについての基本的な知識や、聴覚障がい者が日常生活でどのような点に悩んでいるのか、また健聴者が聴覚障がい者とコミュニケーションを取る際に配慮するポイントなどをあわせて紹介します。


聴覚障がいとは?

聴覚障がいとは、話し声や周囲の物音を聞く能力(聴力・聴覚)に何らかの障がいが生じ、聞こえない・非常に聞こえにくい状態が継続することです。医学的には、25dB(デシベル)以上の音でようやく聞こえる状態になる場合を聴覚障がいと呼びます。

「dB」とは音の大きさを表す単位で、25dBは紙に鉛筆で文字を書く時の“カツカツ、カサカサ”というレベルの音量です。そのくらい小さな音が聞こえないからといって、日常生活に支障をきたす心配は無いといえるでしょう。それでも医学的には「障がい」と診断いたします。なぜなら小さな音が聞こえない理由や、その症状が発覚した経緯・年齢によって、何らかの治療と経過観察が必要なケースも少なくないからです。

例えば、感染症などが原因で聴力に関わる器官のどこかに異常が生じているのであれば、感染症の治療を早急に行わなければ聴力の低下がさらに進行したり、他の臓器にまで病変が生じたりする恐れがあります。何らかの持病がある人の場合、服薬中の薬の副作用で聴力が低下することもある(高血圧治療に用いるループ利尿薬など)ため、常用薬の見直しをしなければなりません。反対に、原因によっては比較的簡単な治療で改善することもあります。

したがって、医師が診断する聴覚障がいと、私たちがコミュニケーションの方法に配慮すべき聴覚障がいとは、必ずしも同じではないということを、事前知識として知ることが重要です。



聴覚障がいの「種類」や「分類」を知れば配慮すべきことも判りやすくなる

聴覚障がいは、「聴覚障がいが発覚する時期(原因)」、「聴覚障がいの種類」、「アイデンティティ」の3要素によって分類されます。

・聴覚障がいが発覚する時期(原因)
障がい発覚の時期は出産前に障がいが起きている場合を「先天性聴覚障がい」と分類し、その原因としては妊娠中のウイルス感染(特に風疹)や聴覚組織の形成不全、遺伝的要因などが挙げられます。一方、健常な聴覚を持って生まれてきたものの、突発性の疾患や薬の副作用、頭部外傷、過剰な騒音、高齢化などで聴覚組織が傷害され、聞こえが悪くなる場合を「後天性聴覚障がい」と分類します。

・聴覚障がいの種類

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聴覚障がいの種類は、原因となる病変が聴覚組織のどこに起こっているかによって分けられ、外耳~中耳にかけての障がいを「伝音性難聴」、内耳~聴神経、脳の障がいによる難聴を「感音性難聴」、伝音性と感音性の両方の原因が見られる難聴を「混合性難聴」と分類します。加齢によって聞こえが悪くなる「老人性難聴」も、多くは感音性難聴の一種です。
伝音性難聴は音の伝わり方が十分ではないが補聴器の活用などで普通に会話できることが多いのに対し、感音性難聴は音が歪んだり響いたりする(脳がそのように判断する)ので、単に音を大きくするだけでは聞き間違いが多くなり、「言葉」として伝わりにくいという特徴があります。

・アイデンティティ
最後の「アイデンティティ」による分類は、先天性の障がいなどによって音声言語を習得する前に聴覚障がいになった「ろう(聾)者」、音声言語を習得した後、後天性の障がいで聴覚障がいとなった「中途失聴者」、障がいの発覚時期や程度には関わらず、手話や筆談ではなく残存する聴覚を使ったコミュニケーションを望む「難聴者」の3種。中途失聴者を難聴者に含む場合もあります。


・聴覚障がい者の「程度等級」と適切なコミュニケーション手段

聴力 実際の聞こえ具合 難聴の程度
0dB 健聴者が聴き取れる最も小さい音 正常
普段の会話に問題ない
10dB 雪の降る音
20dB 寝息
30dB 紙に鉛筆で文字を書く音

軽度難聴 (25dB~)

小さな音は聞こえにくい

40dB 静かな会話
50dB 家庭用エアコンの室外機の前くらい 中度難聴 (40dB~)
普段の会話が聞こえにくい
60dB 普通の話し声
70dB 騒々しい事務所の室内程度 高度難聴 (70dB~)
大きな声でも聞こえにくい

80dB 走行中の地下鉄車内
90dB 唄っている最中のカラオケ店個室内くらい
100dB 電車が通過している時のガード下くらい ろう(100dB~)
耳元の大きな声でも聞こえにくい
日常の会話が聞こえない
120dB かなり近くからのサイレン


聴覚障がいを持つ人のうち、聴力レベルが一定以下まで低下している人は、「身体障害者福祉法」に基づいて身体障害者手帳が交付されます。その際、聴力低下の程度に応じて「程度等級」が認定されるのですが、高い等級の聴覚障がい者に対してはコミュニケーションの手段もかなり限られてくるので、細心の注意が必要です。

最も等級が低い6級の人で、両耳が70dB(騒々しい事務所の室内程度)以上、あるいは、片耳が90dB(唄っている最中のカラオケ店個室内くらい)以上・もう一方の耳が50dB(家庭用エアコンの室外機の前くらい)以上でなければ聞こえない聴力レベルです。その上の4級(5級の認定は無し)の場合、両耳が80dB(走行中の地下鉄車内)以上、あるいは両耳で普通の大きさの声を聞く際、最良の語音明瞭度が50%以上でなければ聞き取れない聴力です。

この等級までなら補聴器を活用することで、普通音声でのコミュニケーションも困難ではありません。しかし、等級が3級になると、両耳とも90dB(唄っている最中のカラオケ店個室内くらい)以上ですので、補聴器だけで「会話」を成立させるのはかなり難しくなります。

最重度の聴覚障がいである2級を「ろう」と呼び、100dB(電車が通過している時のガード下くらい)以上でないと聞こえない聴力となります。中でも生まれつき、もしくは言語を獲得する前から耳が聞こえない人を「ろう者」といい、手話を母語として使っている人の多くは「ろう者」となります。

3級以上になると、補聴器だけで聴覚障がい者と「会話」を成立させるのは難しいため、他のコミュニケーション方法を活用しましょう。

等級 判定基準
6級 1.両耳が70dB以上または
2.片耳が90dB以上
4級 1.両耳が80dB以上または
2.両耳で普通の大きさの声を聞く際、最良の語音明瞭度が50%以上
3級 両耳とも90dB以上
2級 両耳とも100dB以上(両耳全ろう)
1級 両耳とも100dB以上かつ言語障がい



聴覚に頼らないコミュニケーション法として、手の位置や動かし方、顔の表情などで意思を伝える「手話・指文字」、唇や舌の動きや顔の表情から話の内容を読み取る「読話(読唇)」、大きめのメモ用紙などに文字を書いて意思を伝え合う「筆談」などがあり、近年ではノートPCやスマホを用いたチャット及びメール機能を利用する聴覚障がい者も増えてきました。また、当「SureTalkアプリ」のように、AIを使った会話機能で手話と音声間のコミュニケーションを可能にするツールもございます。

なお、聴覚障がいの認定等級は2級までですが、これに言語障がいが加わると1級に認定されることがあります。このケースの多くは先天性聴覚障がいのろう者で、母語を習得する前に聴覚障がいが発覚しているので、「話し方」そのものが判らない人も少なくありません。そのため、口周りの動きで伝える読話はもちろん、手話や指文字に付随する口の動きもコミュニケーション要素になりにくいので、筆談やチャットなど「視覚」によるコミュニケーションの必要性が高まります。


聴覚障がい者が日常生活で困ること

外見だけでは判断しにくく、特に初対面の人からは気づかれにくい聴覚障がい。障がいがあることに気づいてもらえないことや、周囲の人たちの理解度の低さなどが原因となり、日常生活の様々な場面で不自由さを感じている聴覚障がい者が少なくありません。

聴覚障がいを持つ人たちから実際に寄せられた意見の中で、特に多いのが「情報が正確に伝わらない・伝えられない」ということ。例えば駅で、列車の遅延や停車ホームの変更などのアナウンスが流れても、中等度難聴の人には内容がはっきり伝わらないことがあります。高度難聴以上だと、アナウンスが流れていること自体に気づかない場合も。駅のアナウンスくらいならまだしも、台風や豪雨などの発災時に防災無線や警報が聞こえないと、命に関わる危険性すら懸念されます。

電話での会話ができないため、電話口での本人確認が必要な金融機関への連絡ができない、急いでいるときにタクシーを呼べないなど、「伝えられない」不自由さに悩む場面も多いようです。

その他、聴覚障がい者は誰でも手話が理解できるものだと勘違いされたり、筆談中に非常に長い文章を提示されて内容が理解できなかったりと、周囲の人たちのちょっとした誤解や行動が、聴覚障がいを持つ人たちの大きな悩みにつながることがあります。



聴覚障がい者とコミュニケーションをする際に配慮すべきポイント

ここまで紹介してきたように、ひとことで「聴覚障がい者」と言っても、障がいが発覚した時期や障がいの種類、聴力のレベル、さらに本人の言語習得レベルなどにより、「最適」と思われる意思伝達手段は異なります。だからこそ、聴覚障がい者ならではの悩みを知り、私たち1人ひとりにできる心配りを忘れないことが、円滑なコミュニケーションを実現するための第一歩と言えるのです。

一例を挙げると、「むやみに大声を出さない」ということです。聞こえが悪そうな人、補聴器を利用している人に対しては、ついつい大きな声で話しかけたくなりますが、音が歪んで聞こえる感音性難聴の場合、大声で話されると余計に言葉が認識できなくなります。

補聴器無しである程度まで聞こえる軽度~中等度難聴の場合も、周囲が騒がしい状況下や、複数の人が同時に話している場での会話は判りづらく、補聴器の使用中、早口で一気にまくし立てるようなしゃべり方をされると、言葉が聞き取りにくくなります。できるだけゆっくりと、ひと言ひと言を明瞭に話しかける、片側の聴力だけが極度に低い場合は、聞こえが良い方に移動して話しかけるなど、ちょっとした配慮が大切です。

職場での打ち合わせなど、複数の人が会話する時は、まず手を上げて話し始めるなど、発言者が誰なのかを示すだけでも、聴覚障がい者にとってはずいぶんと聞き取りやすくなります。その際、資料やマスクなどで顔が隠れないようにする配慮も重要です。

健聴者が、いきなり手話や指文字をマスターするのはなかなか難しいことですが、複数の伝達方法があることを知っておくだけでも、コミュニケーションがグッとスムーズになることがあります。多くの聴覚障がい者が、“普段づかい”のコミュニケーション手段を持っているからです。前述の「アイデンティティによる分類」で説明したろう者の多くは、手話を第一言語として重視しているのに対し、難聴者の第一言語は、あくまで音声です。それでも、音声に加えて視覚情報(筆談やチャットなど)を併用することで、より正確な意思疎通が図れるようになります。

聴覚障がい者の中には、耳の形をモチーフにした「耳マーク」を携帯するバッグ等に貼付して、『聞こえが悪い(聞こえない)ので配慮してもらいたい』という気持ちを、自ら発信する人もいます。もし見かけたときには、本稿で紹介した「配慮すべきポイント」を思い起こしていただけたら嬉しいです。


<参考文献>
神奈川県聴覚障害者福祉センター
http://www.kanagawa-wad.jp/faq02.html

東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tokyoheart/shougai/tyoukaku.html

SureTalkとは

AIを使った会話機能で手話と音声間のコミュニケーションを可能にするツールです。ビデオ通話からAIが身体動作を追跡し手話の特徴を抽出、手話を認識してテキストへと変換します。逆に健聴者から聴覚障がい者へは、音声を自動でテキスト化することでコミュニケーションを行います。

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